てばかじゃねえからな」
呉清輝は、腹からおかしく、快よいもののようにヒヒヒと笑った。
翌朝、おやじが、あたふたと、郭を探しにはいってきた。郭の所有物を調べた。ズックの袋も、破れ靴も、夏の帽子も何一つ残っていなかった。
「くそッ! 畜生! 百円がところ品物を持ち逃げしやがった!」おやじは口をとがらしていた。
呉清輝と田川とはおやじが扉の外に見えなくなると、吹きだすようにヒヒヒヒと笑いだした。
三日たった。呉清輝は、一方の腕を頸にぶらさげたまま、起《おき》て橇に荷物を積んだ。香水、クリイム、ピン、水白粉、油、ヘアネット、摺《す》り硝子《ガラス》の扇形の壜《びん》、ヘチマ形の壜。提灯《ちょうちん》形の壜。いろいろさまざまな恰好の壜がはいったボール箱が橇いっぱいに積みこまれた。呉は、その上へアンペラを置いた。そして、その上へ、秣草《まぐさ》を入れた麻袋を置いた。傷ついた腕はまだ傷そうであった。しかし、人には、もうだいじょうぶだ、癒《なお》った、と言った。
「一人で出かけるのかい!」
田川は訊ねた。
「うむ、お前も行きたいか? 連てってやろうか」
呉清輝は、小鼻でくッくッと笑って、自
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