分の所有物を纏《まと》めた。河のかなたへ※[#「二点しんにょう+官」、第3水準1−92−56]《ずらか》ってしまうのだ。
「俺ゃ、まだ起られねえ」
晩が来ると、夜がふけるのを待たずに呉は出発した。
田川は、ベットに横たわっていた。
「気をつけろよ」
呉は出かけに言った。
「ああ」
一時間して、おやじが支那人部屋へとびこんできた。おやじは、また、郭進才の場合のように呉の床箆子の附近をさがしまわって、破った、虱《しらみ》のいる肌着が一枚丸めて放ってあるのをつまみ上げ、舌打ちをした。
「チッ! まったく、油断もすきもならん! 貴様は、こらッ、田川! ここに寝ていて呉が何をしていたか分ったであろうが!」
田川は、毛布をひっかむって眠ったふりをしていた。そして、おやじが出て行った後で声をあげて愉快げに笑った。
だが、数日の後、おやじは、別の支那人をつれてきた。保証金を取った。そして、倉庫に休んでいる品々を別の橇に積みこませた。
四
黒竜江の結氷が轟音《ごうおん》とともに破れ、氷塊《ひょうかい》は、濁流《だくりゅう》に押し流されて動きだす春がきた。
河蒸汽ののどかな
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