ぷりで歩いている。それを見てそう思うのだ。あの顔と較べて、いつも、じろじろ気を配って歩かなければならない罪人のような俺の境遇はどうだ!
彼れらは、銭を持っていることがいらない。仕事を失う心配がない。食うものも着るものも必要なだけ購買組合からあてがわれる。俺らは、ただ金を取るために、危いことだって、気にむかないことだって、何だってやっている。内地でだってそうだ。満州でだってそうだ。ところが、彼れらは、金を取るためではなく、自分たちの生活を築きあげるために働いている。他人のために働いているんではなく、自分のために働いているんだ!
むつまじげに労働学生が本をかかえて歩いている。それだけが、もう、彼をすばらしく引きつけるのだった。
夜になると、怪我をしない郭と、若いボーイが扉のかげで立話をした。倉庫の鍵を外套から氷の上へガチャッと落した。やがて、橇に積んだボール紙の箱を乾草で蔽《おお》いかくし、馬に鞭打って河のかなたへ出かけて行った。
「あいつ、とうとう行っちゃったぞ!」
呉清輝は、田川の耳もとへよってきて囁いた。
「どうしてそれが分るかい!」
「どうしても、こうしてもねえ。あいつだっ
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