だ。そのくせ、昔の先生に対してさえ、今は、官憲としての権力を振りまわして威張っていた。そして、旧師に対するような態度がちっともなかった。運動をやっている者は、先生だって、誰だって悪いというような調子だ。傍で見ても小面が憎かった。彼は、三人のあとから、山の根の運び出した薪を散り/\に放り出してある畠のところまでついて来た。
 三人は仕様がなかった。そこで薪積みを始めた。スパイは、煙草屋でせしめてきた「朝日」を吸って、なか/\去ろうとしない。
 薪は百姓に取って、売るにはあまりに安かった。それで、二年分もあるのだが、自分の家に焚きものとするとて、畠のつゞきの荒らした所へ高く積み重ねて、腐らないように屋根を作りつけて、かこって置くのだ。
「よいしょ。」
「よい来た。」
「よいしょ。」
「よい来た。」
 宗保は、ねそ[#「ねそ」に傍点]を掴んで提げて来る薪を一把一把積み重ねて行った。西山は、下駄をはいていた。五十把ほど運んだ頃、プスリとその鼻緒を切ってしまった。跛を引きだした。細長い、長屋のように積重ねられて行く薪は、背丈けほどの高さになった。宗保は、後藤と西山とが下から両手で差上げる薪束を、
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