と、若手の組合員だった鍋谷や、宗保や、後藤の顔を見た。それから彼等の小学校の先生だった六十三の、これも先生をやめてから、若い者よりももっと元気のある運動者となった藤井にあった。
 どの顔にも元気がない。
 組合が厳存していた時代の元気が、からきしなくなってしまっている。それに、西山が驚いたのは、彼等の興味が、他へ動いていることだ。
 ごつ/\した、几帳面な藤井先生までが、野球フワンとなっていた。慶応|贔屓《びいき》で、試合の仲継放送があると、わざわざ隣村の時計屋の前まで、自転車できゝに出かけた。
 五月一日の朝のことである。今時分、O市では、中ノ島公園のあの橋をおりて、赤い組合旗と、沢山の労働者が、どん/\集っていることだろうな、と西山は考えた。彼は、むほん[#「むほん」に傍点]気を起して、何か仕出かして見たくなった。百姓が、鍬や鎌をかついで列を作って示威運動をやったらどんなもんだろう。
 彼は、宗保と後藤をさそい出した。三人で藤井先生をもさそいに行きかけた。
「おや、お揃いで、どこへ行くんだい?」
 下駄屋の前を通って、四ツ角を空の方へ折れたところで、饂飩《うどん》屋にいたスパイがひ
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