警察から、又その次の警察へ、盥《たらい》廻しに拘留して、体重が二貫目も三貫目も減ってしまった例がいくらでもある。会合が許されない。僕の友人は、労働歌を歌っていて、ただ、それだけで一年間尾行につき纒《まと》われた。
ちょっと、郷里の家へ帰っているともう、スパイが、嗅ぎつけて、家のそばに張りこんでいる。出て歩けば尾行がついて来る。それが結婚のことで帰っていてもそうなのである。親爺の還暦の「お祝い」のことで帰っていてもそうなのである。嚊《かかあ》を貰って、嚊の親もとへ行っていると、スパイは、その門の中へまでのこ/\はいって来る。金儲けと財産だけしか頭にない嚊の親や、兄弟が、どんな疑心を僕に対して起すかは、云わずとも知れた話である。スパイは、僕等の結婚や、お祝いごとまでも妨害するのだ。僕は、若し、いつか親爺が死んだら、子として、親爺の霊を弔わなければならない。子として、親爺の葬儀をしなければならない。その時にでも、スパイは、小うるさく、僕の背後につき纒って、墓場にまでやって来るだろう。
西山も、帰るとスパイにつき纒われる仲間の一人だ。その西山が胸を悪くしてO市から帰っていた。
彼は、も
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