かにそうだった。子供が自分の衝動の赴くまゝに、やりたい要求からやったことが、先生から見て悪いことがたび/\ある。子供はそこで罰せられねばならない。しかも、それは、子供ばかりにあるのではなかった。誰れにでもあることだ。人間には、どんなところに罪が彼を待ち受けているか分らない。弱点を持っている者に、罪をなすりつけようと念《こゝろ》がけている者があるのだ。彼は、それを思って恐ろしくなった。

      二

「財布を出して見ろ。」
「はい。」
「ほかに金は置いてないか。」
「ありません。」
「この札は、君が出したやつだろう。」
 憲兵伍長は、ポケットから、大事そうに、偽札を取り出して示した。
「さあ、どうだったか覚えません。――あるいは出したやつかもしれません。」
「どっから受取った?」
「…………」
 栗島は、憲兵上等兵の監視つきで、事務室へ閉めこまれ、二時間ほど、ボンヤリ椅子に腰かけていた。机の上には、街の女の写真が大きな眼を開けて笑っていた。上等兵は、その写真を手に取って、彼の顔を見ながら、にや/\笑った。女郎の写真を彼が大事がっているのを冷笑しているのだが、上等兵も街へ遊びに出て、
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