穴
黒島傳治
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)偽《に》せ札《さつ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)横※[#「やまいだれ+坐」、第3水準1−88−47]《よこね》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)知らず/\
−−
一
彼の出した五円札が贋造紙幣だった。野戦郵便局でそのことが発見された。
ウスリイ鉄道沿線P―の村に於ける出来事である。
拳銃の這入っている革のサックを肩からはすかいに掛けて憲兵が、大地を踏みならしながら病院へやって来た。その顔は緊張して横柄で、大きな長靴は、足のさきにある何物をも踏みにじって行く権利があるものゝようだった。彼は、――彼とは栗島という男のことだ――、特色のない、一兵卒だった。偽《に》せ札《さつ》を作り出せるような気の利いた、男ではなかった。自分でも偽せ札を拵《こしら》えた覚えはなかった。そういうあやしい者から五円札を受取った記憶もなかった。けれども、物をはねと
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