黒くなった。血は、いつまでたっても止まらなかった。
血は、老人がはねまわる、原動力だ。その原動力が、刻々に、体外へ流出した。
彼は、抜き捨てられた菜ッ葉のように、凋《しお》れ、へすばってしまいだした。
彼は最後の力を搾った。
彼はまた這い上ろうとした。
将校は、大刀のあびせようがなかった。将校は老人の手や顔に包丁で切ったような小さい傷をつけるのがいやになった。大刀の斬れあじをためすためにやってみたのだ。だが、そいつがあまりに斬れなかった。
「えゝい、仕様がない。このまゝ埋めてしまえ! 面倒だ」
将校はテレかくしに苦笑した。
シャベルを持っている兵卒は逡巡した。まだ老人は生きて、はねまわっているのだ。
「やれツ! かまわぬ。埋めっちまえ!」
「ほんとにいゝんですか? ××殿!」
兵卒は、手が慄えて、シャベルを動かすことが出来なかった。彼等は、物訊ねたげに、傍にいる者の眼を見た。
将校は、叱咤《しった》した。
穴の底で半殺しにされた蛇のように手足をばた/\動かしている老人の上へ、土がなだれ落ちて行きだした。
「たすけ……」老人は、あがき唸った。
土は、老人の憐憫を求め
前へ
次へ
全25ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒島 伝治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング