もなげな態度が、却って変に考えられた。罪なくして、薄暗い牢獄に投じられた者が幾人あることか! 彼はそんなことを思った。自分もそれにやられるのではないか!
長い机の両側に、長い腰掛を並べてある一室に通された。
曹長が鉛筆を持って這入って来て、彼と向い合って腰掛に腰かけた。獰猛な伍長よりも若そうな、小供らしい曹長だ。何か訊問するんだな、何をきかれたって、疑わしいことがあるもんか! 彼は心かまえた。曹長は露西亜語は、どれくらい勉強したかと訊ねた。態度に肩を怒らしたところがなくて砕けていた。
「西伯利亜へ来てからですから、ほんの僅かです。」
云いながら、瞬間、何故曹長が、自分が露西亜語をかじっているのを知っているか、と、それが頭にひらめいた。
「話は出来ますか。」曹長は気軽くきいた。
「どっから僕が、露西亜語をかじってるんをしらべ出したんですか?」
「停車場《ていしゃば》で君がバルシニャ(娘)と話しているのをきいたことがあるよ――美人だったじゃないか。」
「あの女は、何でもない女ですよ。何も関係ありゃしないんです。」彼は、リザ・リーブスカヤのことを思い出して、どぎまぎして「胸膜炎で施療に
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