、盲目の眼があいた。と、そのメクラは、島四国をめぐってさえ眼があくのならば、本四国をめぐったらどんなによいだろうと云った。ところが、メクラは本四国を上位においてそう云ったばかりに、開いた眼が又ふさがってしまった。そのメクラは女だったそうだが、非常に口惜しがってじだんだを踏んだそうである。その足のあとというのが岩に印されている。私もその足のあとだという岩の窪みを見た。しかしまだ足が立ったいざりや、眼があいたメクラについては人から話をきくだけで、直接、私自身がそういう人々に会ったことは一度もない。
そういう人があるのならば本当に私は会ってみたいと思っているのだが、出会さない。
島の人々は、遍路たちに夏蜜柑を籠に入れ道ばたに置き一ツ二銭とか三銭の木札を傍に立てゝ売るのだが、いまは、蜜柑だけがなくなって金が入れられていないことが多い。店さきのラムネの壜がからになって金を払わずに遍路が混雑にまぎれて去ったりする。人々は、いまじゃ弘法大師もさっぱり睨みがきかなくなったと云って罰のバチがあたることを殆んど信じなくなっている。
底本:「黒島傳二全集 第三巻」筑摩書房
1970(昭和45)年8月30日第1刷発行
※本作品中には、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。
※間違いなどの指摘はinfo@aozora.gr.jpに加えて、yohno@ecis.nagoya−u.ac.jpまでおねがいします。
入力:大野裕
校正:原田頌子
2001年9月3日公開
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