まぬように、だらりと手を出せば、それは見込がない。等々……。握手と同時に現われる、相手の心を読むことを、彼は心得てしまった。
吉永がテーブルと椅子と、サモ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ールとがある部屋に通されている時、武石は、鼻から蒸気を吐きながら、他の扉を叩いていた。それから、稲垣、大野、川本、坂田、みなそれぞれ二三分間おくれて、別の扉を叩くのであった。
「|今晩は《ズラシテ》。」
そして、相手がこちらの手を握りかえす、そのかえしようと、眼に注意を集中しているのであった。
彼等のうちのある者は、相手が自分の要求するあるものを与えてくれる、とその眼つきから読んだ。そして胸を湧き立たせた。
「よし、今日は、ひとつ手にキスしてやろう。」
一人の女に、二人がぶつかることがあった。三人がぶつかることもあった。そんな時、彼等は、帰りに、丘を下りながら、ひょいと立止まって、顔を見合わせ、からから笑った。
「ソぺールニクかな。」
「ソぺールニクって何だい?」
「ソぺールニク……競争者だよ。つまり、恋を争う者なんだ。ははは。」
三
松木も丘をよじ登って行く一人だった。
彼
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