かった。けれども、そのひびきで、自分達を歓迎していることを、捷《すばや》く見てとった。
晩に、炊事場の仕事がすむと、上官に気づかれないように、一人ずつ、別々に、息を切らしながら、雪の丘を攀《よ》じ登《のぼ》った。吐き出す呼気が凍《こご》って、防寒帽の房々した毛に、それが霜のようにかたまりついた。
彼等は、家庭の温かさと、情味とに飢え渇していた。西伯利亜へ来てから何年になるだろう。まだ二年ばかりだ。しかし、もう十年も家を離れ、内地を離れているような気がした。海上生活者が港にあこがれ、陸を恋しがるように、彼等は、内地にあこがれ、家庭を恋しがった。
彼等の周囲にあるものは、はてしない雪の曠野《こうや》と、四角ばった煉瓦《れんが》の兵営と、撃ち合いばかりだ。
誰のために彼等はこういうところで雪に埋れていなければならないだろう。それは自分のためでもなければ親のためでもないのだ。懐手をして、彼等を酷使していた者どものためだ。それは、××××なのだ。
敵のために、彼等は、只働きをしてやっているばかりだ。
吉永は、胸が腐りそうな気がした。息づまりそうだった。極刑に処せられることなしに兵営か
前へ
次へ
全39ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒島 伝治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング