積上げられた乾草があった。
荷車は、軒場に乗りつけたまま放ってあった。
室内には、古いテーブルや、サモ※[#「※」は「ワ」に濁点、21−3−9]ールがあった。刺繍《ししゅう》を施したカーテンがつるしてあった。でも、そこからは、動物の棲家《すみか》のように、異様な毛皮と、獣油の臭いが発散して来た。
それが、日本の兵卒達に、如何にも、毛唐の臭いだと思わせた。
子供達は、そこから、琺瑯引きの洗面器を抱えて毎日やって来た。ある時は、老人や婆さんがやって来た。ある時は娘がやって来た。
吉永は、一中隊から来ていた。松木と武石とは二中隊の兵卒だった。
三人は、パン屑《くず》のまじった白砂糖を捨てずに皿に取っておくようになった。食い残したパンに味噌汁をかけないようにした。そして、露西亜人が来ると、それを皆に分けてやった。
「お前ンとこへ遊びに行ってもいいかい?」
「どうぞ。」
「何か、いいことでもあるかい?」
「何ンにもない。……でもいらっしゃい、どうぞ。」
その言葉が、朗らかに、快活に、心から、歓迎しているように、兵卒達には感じられた。
兵卒は、殆んど露西亜《ロシア》語《ご》が分らな
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