供達は、皆な、一時に立止まって、谷間の炊事場を見下した。
「飯をこぼすぞ。」
吉永が日本語で云った。
「なアに?」
吉永は、少女にこちらへ来るように手まねきをした。
丘の上では、彼等が、きゃあきゃあ笑ったり叫んだりした。
そして、少し行くと、それから自分の家へ分れ分れに散らばってしまった。
二
山が、低くなだらかに傾斜して、二つの丘に分れ、やがて、草原に連って、広く、遠くへ展開している。
兵営は、その二つの丘の峡間にあった。
丘のそこかしこ、それから、丘のふもとの草原が延びて行こうとしているあたり、そこらへんに、露西亜《ロシア》人《じん》の家が点々として散在していた。革命を恐れて、本国から逃げて来た者もあった。前々から、西伯利亜に土着している者もあった。
彼等はいずれも食うに困っていた。彼等の畑は荒され、家畜は掠奪《りゃくだつ》された。彼等は安心して仕事をすることが出来なかった。彼等は生活に窮するより外、道がなかった。
板壁の釘が腐って落ちかけた木造の家に彼等は住んでいた。屋根は低かった。家の周囲には、藁《わら》やごみを散らかしてあった。
処々に、うず高く
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