どこで自分の骨を見も知らぬ犬にしゃぶられているか分らないのだ。
 徒歩で深い雪の中へ行けば、それは、死に行くようなものだ。
 彼等をシベリアへよこした者は、彼等が、×××餌食《えじき》になろうが、狼に食い×××ようが、屁《へ》とも思っていやしないのだ。二人や三人が死ぬことは勿論である。二百人死のうが何でもない。兵士の死ぬ事を、チンコロが一匹死んだ程にも考えやしない。代りはいくらでもあるのだ。それは、令状一枚でかり出して来られるのだ。……
 丘の左側には汽車が通っていた。
 河があった。そこには、まだ氷が張っていた。牛が、ほがほがその上を歩いていた。
 右側には、はてしない曠野があった。
 枯木が立っていた。解けかけた雪があった。黒い烏の群が、空中に渦巻いていた。陰欝《いんうつ》に唖々《ああ》と鳴き交すその声は、丘の兵舎にまで、やかましく聞えてきた。それは、地平線の隅々からすべての烏が集って来たかと思われる程、無数に群がり、夕立雲のように空を蔽わぬばかりだった。
 烏はやがて、空から地平をめがけて、騒々しくとびおりて行った。そして、雪の中を執念《しゅうね》くかきさがしていた。
 その群は
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