らくらして前後が分らなくなった。そして眠るように、意識は失われてしまった。
彼の四肢は凍った。そして、やがて、身体全体が固く棒のように硬ばって動かなくなった。
……雪が降った。
白い曠野《こうや》に、散り散りに横たわっている黄色の肉体は、埋められて行った。雪は降った上に降り積った。倒れた兵士は、雪に蔽《おお》われ、暫らくするうちに、背嚢《はいのう》も、靴も、軍帽も、すべて雪の下にかくれて、彼等が横たわっている痕跡《こんせき》は、すっかり分らなくなってしまった。
雪は、なお、降りつづいた。……
一〇
春が来た。
太陽が雲間からにこにこかがやきだした。枯木にかかっていた雪はいつのまにか落ちてしまった。雀の群が灌木《かんぼく》の間をにぎやかに囀《さえず》り、嬉々としてとびまわった。
鉄橋を渡って行く軍用列車の轟《とどろ》きまでが、のびのびとしてきたようだ。
積っていた雪は解け、雨垂れが、絶えず、快い音をたてて樋《とい》を流れる。
吉永の中隊は、イイシに分遣されていた。丘の上の木造の建物を占領して、そこにいる。兵舎の樋から落ちた水は、枯れた芝生の間をくぐって、谷間
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