うしてくれ、罰としてここには置かない。そうするんだ。――すぐだ、速刻やってくれ!」

   八

 一隊の兵士が雪の中を黙々として歩いて行った。疲れて元気がなかった。雪に落ちこむ大きな防寒靴が、如何にも重く、邪魔物のように感じられた。
 雪は、時々、彼等の脛《すね》にまで達した。すべての者が憂欝《ゆううつ》と不安に襲われていた。中隊長の顔には、焦慮の色が表われている。
 草原も、道も、河も悉《ことごと》く雪に蔽われていた。
 枝に雪をいただいて、それが丁度、枝に雪がなっているように見える枯木が、五六本ずつ所々に散見する外、あたりには何物も見えなかった。どこもかしこも、すべて、まぶしく光っている白い雪ばかりだった。そして、何等の音も、何等の叫びも聞えなかった。ばりばり雪を踏み砕いて歩く兵士の靴音は、空に呑まれるように消えて行った。
 彼等は、早朝から雪の曠野《こうや》を歩いているのであった。彼等は、昼に、パンと乾麺麭《かんめんぽう》をかじり、雪を食ってのどを湿した。
 どちらへ行けばイイシに達しられるか!
 右手向うの小高い丘の上から、銃を片手に提げ、片手に剣鞘を握って、斥候が馳《は》せ
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