た。頭の上から、機関銃をあびせかけられたこともあった。
吉永は、自分がよくもこれまで生きてこられたものだと思った。一尺か二尺、自分の立っていた場所が横へそれていたら、死んでいるかもしれないのだ。
これからだって、どうなることか、分るものか! 分るものか! 俺が一人死ぬことは、誰れも屁《へ》とも思っていないのだ。ただ、自分のことを心配してくれるのは、村で薪出しをしているお母《ふくろ》だけだ。
彼は、お母がこしらえてくれた守り袋を肌につけていた。新しい白木綿で縫った、かなり大きい袋だった。それが、垢《あか》や汗にしみて黒く臭くなっていた。彼は、それを開けて、新しい袋を入れかえようと思った。彼は、袋を鋏《はさみ》で切り開けた。お守りが沢山慾張って入れてある。金刀比羅宮《ことひらぐう》、男山八幡宮《おとこやまはちまんぐう》、天照皇大神宮、不動明王、妙法蓮華経、水天宮。――母は、多ければ多いほど、御利益があると思ったのだろう! それ等が、殆んど紙の正体が失われるくらいにすり切れていた。――まだある。別に、紙に包んだ奴が。彼はそれを開けてみた。そこには紙幣が入っていた。五円札と、五十銭札と、
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