一円札とが合せて十円ぐらい入っている。母が、薪出しをしてためた金を内所《ないしょ》で入れといてくれたのだろう。
「おい、おい。お守りの中から金が出てきたが。」
吉永は嬉しそうに云った。
「何だ。」
「お守りの中から金が出てきたんだ。」
「ほんとかい。」
「嘘を云ったりするもんか。」
「ほう、そいつぁ、儲《もう》けたな。」
松木と武石とが調理台の方から走《は》せ込《こ》んで来た。
札も、汗と垢とで黒くなっていた。
「どれどれ、内地の札だな。」松木と武石とはなつかしそうに、それを手に取って見た。「内地の札を見るんは久しぶりだぞ。」
「お母が多分内所で入れてくれたんだ。」
「それをまた今まで知らなかったとは間がぬけとるな。……全く儲けもんだ。」
「うむ、儲けた。……半分わけてやろう。」
吉永は、自分が少くとも、明後日は、イイシへ行かなければならないことを思った。雪の谷や、山を通らなければならない。そこにはパルチザンがいる。また撃ち合いだ。生命がどうなるか。誰れが知るもんか! 誰れが知るもんか!
六
松木は、酒保から、餡《あん》パン、砂糖、パインアップル、煙草などを買って来
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