おだやかな調子ですぐ分った。彼は追っかけて来ていいことをしたと思った。
帰りかけて、うしろへ振り向くと、ガーリヤは、雪の道を辷《すべ》りながら、丘を登っていた。
「おい、いいかげんにしろ。」炊事場の入口から、武石が叫んだ。「あんまりじゃれつきよると競争に行くぞ!」
五
吉永の中隊は、大隊から分れて、イイシへ守備に行くことになった。
HとSとの間に、かなり広汎《こうはん》な区域に亘って、森林地帯があった。そこには山があり、大きな谷があった。森林の中を貫いて、河が流ていた。そのあたりの地理は詳細には分らなかった。
だが、そこの鉄橋は始終破壊された。枕木はいつの間にか引きぬかれていた。不意に軍用列車が襲撃された。
電線は切断されづめだった。
HとSとの連絡は始終断たれていた。
そこにパルチザンの巣窟があることは、それで、ほぼ想像がついた。
イイシへ守備中隊を出すのは、そこの連絡を十分にするがためであった。
吉永は、松木の寝台の上で私物を纏《まと》めていた。炊事場を引き上げて、中隊へ帰るのだ。
彼は、これまでに、しばしば危険に身を曝《さら》したことを思った。
弾
前へ
次へ
全39ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
黒島 伝治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング