洗い晒《さら》された彼女のスカートがちらちら見えていた。
「お前は、人をよせつけないから、ザンパンが有ったってやらないよ。」
「あら、そう。」
彼女は響きのいい、すき通るような声を出した。
「そうだとも、あたりまえだ。」
「じゃいい。」
黒く磨かれた、踵《かがと》の高い靴で、彼女はきりっと、ブン廻しのように一とまわりして、丘の方へ行きかけた。
「いや、うそだうそだ。今さっきほかの者が来てすっかり持って行っちゃったんだ。」
松木はうしろから叫んだ。
「いいえ、いらないわ。」
彼女の細長い二本の脚は、強いばねのように勢いよくはねながら、丘を登った。
「ガーリヤ! 待て! 待て!」
彼は乾麺麭《かんめんぽう》を一袋握って、あとから追っかけた。
炊事場の入口へ同年兵が出てきて、それを見て笑っていた。
松木は息を切らし切らし女に追いつくと、空の洗面器の中へ乾麺麭の袋を放り込んだ。
「さあ、これをやるよ。」
ガーリヤは立止まって彼を見た。そして真白い歯を露《あら》わして、何か云った。彼は、何ということか意味が汲みとれなかった。しかし女が、自分に好感をよせていることだけは、円みのある
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