に近づいて来た。
 ウォルコフのあとから逃げのびたパルチザンが、それぞれ村へ馳せこんだ。そして、各々、家々へ散らばった。

       二

 ユフカ村から四五露里|距《へだた》っている部落――C附近をカーキ色の外皮を纏った小人のような小さい兵士達が散兵線を張って進んでいた。
 白樺や、榛《はんのき》や、団栗《どんぐり》などは、十月の初めがた既に黄や紅や茶褐に葉色を変じかけていた。露の玉は、そういう葉や、霜枯れ前の皺びた雑草を雨後のようにぬらしていた。
 草原や、斜丘にころびながら進んで行く兵士達の軍服は、外皮を通して、その露に、襦袢《じゅばん》の袖までが、しっとりとぬれた。汗ばみかけている彼等は、けれども、「止れ!」の号令で草の上に長々ところんで冷たい露に頬をぬらすのが快かった。
 逃げて行くパルチザンの姿は、牛乳色《ちちいろ》の靄に遮《さえぎ》られて見えなかった。彼等はそれを、ねらいもきめず、いいかげんに射撃した。
 左翼の疎《まば》らな森のはずれには、栗本の属している一隊が進んでいた。兵士達は、「止れ!」の号令がきこえてくると、銃をかたわらに投げ出して草に鼻をつけて匂いをかいだ
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