びながら馳せくだりだした。
副官でない方の中尉は、通訳を、壊れかけた小屋の裏へ引っぱって行った。
「何を、君、ばかなことを云ってるんだ!」
中尉は、腹立たしげに通訳に云った。
「だって悲惨じゃありませんか! あんまり悲惨じゃありませんか!」
「君自身が、たま[#「たま」に傍点]にあたらんように用心し給え!」
中尉は通訳をにらみつけて大隊長のそばへ引っかえした。
通訳は、小屋のかげから、悲鳴や叫喚や、銃声がごったかえしに入りまじって聞えて来る方をおずおず見やった。右の一層高くなっている麓に据えつけられた狙撃砲は、その砲《つつ》さきへ弾丸《たま》をつめこんで、村をめがけてぶっぱなした。
だが、そのたまが、どこに落ちて、どれだけ家をつぶし、人を殺したか、もう通訳には分らなかった。乾草を積重ねてあるところと、それから、百姓家と、二カ所から紫色の煙が上って、そこらへんに蠢めき騒いでいる兵たいや、百姓や、女や子供達を包んでしまった。と、また、別の離れたところからも、つづいて煙が上りだした。兵士達は、大隊長の一つの命令を遂行したのだ。
村は焼き払われだした。紫色や、硫黄色《いおういろ》の
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