通訳は、刺すような痛みでも感じたかのように、左右の手を握りしめて叫んだ。「女を殺している。若い女を突き殺してる!――大隊長殿あんなことをしてもいいんですか!」
でぶでぶ腹の大隊長の顔には、答えの代りに、冷笑が浮んだばかりだった。
谷間や、向うの傾斜面には、茶色の鬚《ひげ》を持っている男が、こっちでパッと発火の煙が上ると同時に、バタバタ倒れた。
「今度は誰れが倒れるだろう……女か、子供か?――それともこっちのカーキ色の軍服だろうか!」
通訳は子供のようにおどおどしながら、村の方を見ていた。――銃声は、一つまた一つ、またまた一つと、つづけてパチパチ鳴りひびいた。
大隊長と、将校は、野球の見物でもするように、面白そうに緊張していた。
ユフカは、外国の軍隊を襲撃したパルチザンが逃げこんで百姓に化けるので有名だった。そればかりでなく、そこの百姓が残らずパルチザンだ。――ポーランド人の密偵の報告によるとそうだった。
密偵は、日本軍にこびるために、故意に事実を曲げて仰山《ぎょうさん》に報告したことがあった。が、パルチザンの正体と居所を突きとめることに苦しんでいる司令部員は、密偵の予想通り
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