、搾り場の道具を置いてある所へ行って、まかない棒を探した。一寸、聞いたことのあるような名だったが、どれがそうなのか思い出せなかった。
 焚き火の傍へ行って、殊更らしく訊ねかえすと、他の労働者達に笑われるので気が引けた。何とかして、自分で探し出して持って行かねばならない。
「まかない棒というから、とにかく棒には違いないんだろう。」
 彼は、醤油を煮ている大きな釜の傍にササラやタワシや櫂などを置いてある所を探しまわった。
「何を探しよるんどい?」焚き火の方へ行こうとして事務所からやって来た仁助がきいた。
 京一は、助かったと思って喜んだ。従兄に訊ねると叱られるかもしれないが、恥しい思いをしなくもいい。
「まかない棒いうたらどれどいの?」
 従兄は、例の団栗眼を光らして怒るかと思いの外、少し唇を尖らして、くっくっと吹き出しそうになった。が、すぐそれを呑み込んで、
「ううむ?」と曖昧に塩入れ場の前に六尺の天秤棒や、丸太棒やを六七本立てかけてある方に顎をちょいと突き出して搾り場を通り抜けて行ってしまった。
 京一は、丸太棒を取って、これがまかない棒というんだろうと思った。従兄は顎でこの棒を指して
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