…………どうなりゃ!」
古江は、きらりとすごい眼つきをした。京一は、桃桶を袋の口にあてがいはずして、諸味を土の上にこぼしたのである。諸味は、古江の帆前垂《ほまえだれ》から足袋を汚してしまった。
「くそッ?」
「ははははは……」
傍で袋をはいでいる者達は面白がって笑った。
仁助は、従弟が皆に笑われたり、働きが鈍かったりすると、妙に腹が立つらしく、殊更京一をがみがみ叱りつけた。時には、彼の傍についていて、一寸した些事を一々取り上げて小言を云った。桃桶で汲む諸味の量が多いとか、少いとか、やかましく云った。
すると、古江も図に乗って、仁助と同じように小言を並べた。
「おーい、やろか。」
三十分のタバコがすむと、仁助は事務所から出て来て、労働者にそれぞれ仕事を命じた。仕事はいろいろあった。そして京一にはどれも、これも勝手が分らなかった。器具だけでも沢山あって、容易にその名前を覚えられなかった。コキン、コガ、スマシ、圧《お》し棒、枕……こんな風に変な名前がいくらでもあった。枕といっても、勿論、寝る時に使うそれではなかった。
五六人も揃って同じ仕事をする場合には仕事に慣れた古江は若い者
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