盛り上げてやった。ダシがらの鰯もやった。猫は舌なめずりをして、それを食うて腹をふくらした。それだのに、他所へ行くと、早速、盗みを働くのだった。
そうして、本職の鼠を捕る方は、おろそかになった。
「おりくよ、旦那んとこにゃ、雛を捕られた云うて大モメをしよるが、また家の紋が捕ったんじゃないんか。」ある時、畠から帰りかけた、地主の家の騒ぎを聞いてきて、じいさんは、ばあさんに云った。
「そうかいんの、……あれはどこイ行たんかしらん……チョチョチョ。」ばあさんは猫を呼んでみた。すると、どこからか、悄々《しお/\》として「紋」が出てきた。
「われゃ、どこに居ったんぞ?」
そうしているところへ、地主の下男が、喰い殺された雛の脚をさげてやってきた。
「お前んとこの猫は、こら、こんなに雛を喰い殺してしまいやがった!」と下男は、雛をばあさんの顔さきへ突きつけた。
「それゃ、まあ、すまんこって……」
「おどれが、こんな所で、のこのこ這いよりくさる!」下男は猫を見ると、素早く、礫を拾って投げつけた。不意に飛んできた礫に驚いて猫は三四間走ってから、下男を振り返って見て、物乞いするようにないた。
「おどれが!
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