の吸ひさしを吸ひながら、また饒舌り出す。
「日本にだってカーネギーが一人ぐらい出てきたっていいんだ。実はワシがなるつもりだったんだが(聴衆笑ふ)。イヤ、ほんとだ、ワシがある発明をしたんだね、するとワシには金がなくてそれをやる訳にゆかない。だから一緒にやる人間が出てきた。ところがどうだね、大当たり大成功だね。俺《ワシ》にはちっとばかり金をくれたきりで、その男はもう毎日自動車で、ツラッター、ツラッター(身振をする)と走らしてる。発明した当人はコンナ始末でサ。ウン、けどもワシは腹が大きいから、そんなこと屁とも思はないよ。自動車飛ばすのが嬉しい奴には、飛ばさしておくさ」
「フフフフフ」
輪は一せいに失笑するのだ。が、彼は頗る真面目な顔つきだ。
「ほんとだよ、乞食だッて三菱だッて変りゃアないんだよ。寝て、起きて、飯を食って、女を抱いて、酒を飲んで、何をするッたッて、それ以上のことができるわけのもんぢゃないからねエ」
「乞食にゃア女ア抱けねえだろ」
若い男がからかひの槍を入れる。
「冗談いっちゃアいけないよ。そんなことはナンでもない話だ。ただ俺《ワシ》はソンナことをしたいとは思はないだけの話だ
前へ
次へ
全10ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
添田 唖蝉坊 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング