が、みんな乞食だって嬶もあれば、妾を持ってる者もあるよ。この浅草にだって、杖をひッぱたきながら浪花節を語って、何万両貯めてる親分もゐるんだからネ。君らは何んでも社会的事象の表面ばかりしか見ないから駄目なんだよ、ウン……乞食ッたってこれは立派な職業だよ」
「ハハハハハハハ」
「そんなに喜んぢゃいけない、笑ひ事じゃアない。みんなつまらない事なら喜んでるから困るねえ。小説だの講談だのでも、樋口苦安《ひぐちくあん》だの、三日目落吉《みっかめおときち》なンて、飴に黒砂糖なすったやうな、ベトベトねつッこいのを嬉しがってるんだからねぇ。世の中の行進は、科学的に小細工を積み重ねてゆくんだから、みんな科学者にならなければ駄目だ。でなければ引ッ込んで瞑想家になるか、浅草の乞食になるかだよ」
「よせやい」
 一人の女が十銭白銅を与へると、あっさりお辞儀をして、また話しつづける。彼の出鱈目講演は縷々として尽きない。金を与へた女が、連れの女と話しながら、ゆく。
「あの乞食はきっといい家の者だったに違ひないわ。でなきゃアあんな高尚な言葉[#「高尚な言葉」に傍点]を使へる訳はないものね」
 天晴れ洞察振りを、また連
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