のか四角いものか知ってる者はまだ誰もありはしない。だから人間は嘘をついても大丈夫だ。博士だとか教授だとかいふ者はみんな嘘をついておまんまにありついてゐるのだね。ニュートンだのアインシュタインだのッて、引力だとか相対性原理だのッて、小むづかしい名前をくッつけて理窟をこねると、それでオカマをおこしちゃふんだからね。何もアインシュタインを頼まなくッたッて、そんな事は朝飯前から分り切ってらアね。家賃がたまるとたちまち悶着が起きる。追立だとか執行だとかね、これ即ち相対性だからサ、絶対なら何も何年家賃を溜めたってどこからも苦情がくるわけはないんだからね」
「ハハハハハ」
彼を取り巻く聴衆の輪が笑ひに揺れてゐる。
「何を言ってやがるんだ」
と呟きながら、覗き込む輪の中に加はる者がある。彼は、足の前に落ちてゐるバットの吸ひさしを拾って、モゾモゾ懐の中をさぐってゐたが、
「誰かマッチを貸してくれませんかね」
一人の男がマッチを出してやると、それに続いて、お内儀風の女が、
「お前さん、煙草が好きなんだネ、これを上げようよ」
と、敷島の箱を一つくれる。
「どうもありがたう」
とそれは懐に入れ、先のバット
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