とを知ってゐる利巧な奴です。恐ろしい名優です。
明るい仲見世の人の急流の中を、八十八ヵ所廻りの判をぺタぺタ押した白衣を着て、子供を連れて歩く跛の女乞食、永年の間、吾妻橋の上に坐って、赤ン坊を泣かしてゐた乞食であるが、近来は衣裳を替へて、仲見世の眩ゆい電光の中に進出してきた。
鈴を鳴らして御詠歌をうたひながら、仲見世の舗道を急流に洗はれる[#「洗はれる」は底本では「流はれる」]杭のやうに、ゆっくり往来する。
綺麗な芸妓がよけて通る。
若紳士が銀貨を与へる。
かくして三、四回この舗石の上を往復すると、明日の白い米と、刺身と寝酒の代がとれる。彼女の亭主は四年前死んだが、乞食の親分だった。田舎から乞食が上ってくると、下谷山伏町の彼の家に「顔出し」にきたものだ。
亭主が死んでも彼女は姐御《あねご》です。
哲学者の乞食
背の低い男。片足にゴムの長靴を穿き、片足は板草履である。どッちか片足、具合が悪いのだ。どこか面ざしが五九郎に似てゐる。場所はどこでもいい。池の淵、ベンチ、家の角、藤棚、どこでも彼の演壇である。何かしゃべりながらたちまち人垣を築いてしまふ。
「宇宙が丸いも
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