ことは出来まい。厳重な意味で言へば、そんなことはなんでもありません。併し敵を討つのは愉快ですな。冷かしはおしまひです。お分かりですか。わたくしの物でない永遠といふ奴は。」
「無論だ。分かる」と、少し立つてから学士は云つた。そして一息に歌をうたひ出した。
[#ここから2字下げ]
「冢穴《つかあな》の入口にて
若き命を遊ばしめよ。
さて冷淡なる自然に
自ら永遠なる美を感ぜしめよ。」
[#ここで字下げ終わり]
患者は忽然立ち留まつて、黙つて、ぼんやりした目附をして、聞いてゐて、さて大声で笑ひ出した。「ひひひひひひ。」鶉の啼声のやうである。「そんなものがあるものですか。あるものですか。永遠なる美なんといふのは無意味です。お聞きなさい。先生。わたくしは土木が商売です。併し道楽に永い間天文を遣りました。生涯掛かつて準備をした為事《しごと》をせずに、外の為事をするのが、当世流行です。そこで体が曲つて、頭が馬鹿になる程勉強してゐるうちに、偶然ふいと誤算を発見したですな。わたくしは太陽の斑点を研究しました。今までの奴が遣らない程綿密に研究しました。そのうちにふいと。」
この時日が向ひの家の背後《うし
前へ
次へ
全27ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
アルチバシェッフ ミハイル・ペトローヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング