といふやうな調子で、小声で言ひ出した。「先生、どうでせう。今誰かがあなたに向つて、この我々の地球が死んでしまふといふことを証明してお聞かせ申したらどうでせう。あいつに食つ附いてゐるうざうもざうと一しよに、遠い未来の事ではない、たつた三百年先きで死んでしまふのですね。死に切つてしまふのですね。外道《げだう》。勿論我々はそれまでゐて見るわけには行かない。併し兎に角それが気の毒でせうか。」
学士はまだ患者がなんと思つて饒舌《しやべ》つてゐるか分からないでゐるうちに患者は語り続けた。
「それは奴隷根性が骨身に沁みてゐて、馬鹿な家来が自分の利害と、自分を打《ぶ》つてくれる主人の利害とを別にして考へて見ることが出来ず、又自分といふものを感ずることが出来ないやうな地球上の住人は、気の毒にも思ふでせう。さう思ふのが尤もでもあるでせう。併し、先生、わたくしは嬉しいですな。」この詞を言ふ時の患者の態度は、喜びの余りによろけさうになつてゐるといふ風である。「むちやくちやに嬉しいですな。へん。くたばりやあがれ。さうなれば手前ももう永遠に己の苦痛を馬鹿にしてゐることは出来まい。忌々しい理想を慰みものにしてゐる
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