ろ》に隠れて、室内が急に暗くなつた。そこにある品物がなんでも重くろしく、床板にへばり附いてゐるやうに見えた。患者の容貌が今までより巌畳に、粗暴に見えた。
「それ、御承知の理論があるでせう。太陽の斑点が殖えて行つて、四億年の後に太陽が消えてしまふといふのでせう。あの計算に誤算のあるのを発見したのですね。四億年だなんて。先生、あなたは四億年といふ年数を想像することが出来ますか。」
「出来ない」といつて、学士は立ち上がつた。
「わたくしにも出来ませんや」といつて、患者は笑つた。「誰だつてそんなものは想像することが出来やあしません。四億年といふのは永遠です。それよりは単に永遠といつた方が好いのです。その方が概括的で、はつきりするのです。四億年だといふ以上は、万物は永遠です。冷淡なる自然と、永遠なる美ですな。四億年なんて滑稽極まつてゐます。ところで、わたくしがそれが四億年でないといふことを発見したですな。」
「なぜ四億年でないといふのだ」と、学士は殆ど叫ぶやうに云つた。
「学者先生達が太陽の冷却して行く時間を計算したのですな。その式は単純なものです。ところで、金属にしろ、その他の物体にしろ、冷却
前へ
次へ
全27ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
アルチバシェッフ ミハイル・ペトローヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング