リカは、手を出していひました。ボーリヤは手を出さうとしましたが、急に、その手を引つこめてしまひました。きたない子と握手をしてはいけないといはれてゐるからです。リカは、くるりとまはつて、台所へいきました。
 おくさんは女中をよんで、リカに駄賃をわたさせました。リカはそのお金をぼろッきれにつゝんで、長靴の中へおしこむと、やつと安心して、腰かけの上にからだをのばしながら、晩御飯の支度をしてゐる女中に話しかけました。
「なにを焼いてるの?」
「うなぎよ。」
「うふん、この家の人たちは、うなぎを食ふのかい。ふうん、おらが村のだんなは毎日鳩をくふよ。」
 晩御飯がすむと、奥からピアノの音がひゞいて来ました。
 リカは、それを聞きながら、うと/\となりかけましたが、急におき上つて、さけびました。
「あゝ、さうだつけ。馬のことをわすれてゐた。」
 リカは靴をはいて、庭につないである馬のところへ、水をやりにいきました。
「ほうら。」
 リカは、馬のしりをぴたんとうつと、水桶をどさんとおいて、空を見上げました。馬はうれしがつて、リカに鼻をすりつけながら、ひくゝなきました。
「あまつたれるない。」
 
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