な蠅になるんだつて。」
「それだつて、うそだい。」
 コーリヤはいひました。でも、心の中ではばけものが出て来やしないかとこはくて/\じつと身体をすくめました。
 すると、どこかで、ばけものが笛をふいてゐるやうな、笑つてゐるやうな気がしてきました。
「やい、だれだい、ほえるない。」
 リカがどなりました。コーリヤはとび上るほどおどろきました。
「おどかすない、リカ。」
 リカは笑ひました。
「はッはァ。」
 ふと、前の方にあかい火がみえて来ました。一つ、二つ、三つと。村ぢやあないでせうか。
「おい、リカ。」
 コーリヤはさけびました。
「ほら、あの光つてゐるの、なんだらう。」
「あれやあ火だよ。」
 リカはすましてゐました。
「村の家のあかりだよ。」
「村だつて? やァ、ばんざァい。」
 コーリヤはうれしがつてさけびました。こはばつてゐた顔が急にゆるんで、よろこびが顔中へひろがりました。もう、寒くも何ともなくなりました。
 コーリヤは、そりの中でくびをのばして、だん/\に、はつきりしてくる、光を、じつと、みつめました。
「ほうら。はしれッ。」
 リカも元気づいて、ぴゆう/\むちをふりました。


    三

 さあ、村にきました。おゝ、この堀。あの橋。水車場からはあかりがもれてゐます。山ぎはにあるコーリヤの大きな家では、コーリヤをむかへるやうに大きな門があけてあります。そりは、いきほひよく門の中へかけこみました。すると家中はさつきコーリヤが考へたとほりに、おほさわぎでした。ガブリーラや、ミハイラやバラーシュカたちは、気ちがひのやうにかけまはつて、なんだか、どなつてゐます。犬はよろこんでほえたてます。戸があいて、ぢいやのドウーニヤが手にろうそくをもつてとび出してきました。馬はあらあらしく白い息をはいて、いせいよく鈴をならしました。家の窓々には、あかりが走りあるいてゐます。あすこにランプをもつてゐるのはだれでせう。あゝお母さんだ。
「さァ、下りた。」とリカがいひます。
「あッ、しびれが切れた。」
 それから一分の後には、コーリヤは、大きな、だきついてやりたいほどなつかしい、おなじみの湯わかし器が、ちん/\いつてゐるそばに、すわつてゐました。
「お母さん、ね、ぼくリカに乗せてきてもらつたの。」
「あら、ニキフォールぢあなかつたの?」
「えゝ。」
 お父さまはニキフォールのことをおこりました。
「あいつめ、あんな小ぞうつ子にコーリヤを送つてよこさせるなんて、ひどいやつだ。リカはどこにゐるんだ。」
「台所に。馬に乾草をやつて、じぶんはストーヴの上であたつてゐるの。」
 お父さんは台所へいきました。あとから子どもたちもぞろ/\ついていきました。
 リカは靴をぬぎ、帯もとつて、テイブルの前にすわつてゐました。下女が、お茶をくんでやつてゐました。リカの顔は、まつ赤になつてゐます。鼻の先の皮がむけ、ぬれた麻色の髪の毛が、大きな頭の上にぺつたりと、くつついてゐます。
「おいリカ。」とお父さんはどなりました。
「一たい、おまいみたいなものをよこすなんてどうしたわけだ。おまい、いくつだ。」
「おれァ赤ん坊ぢあねえよ。」
 リカは、ぶつきらぼうに答へました。
「もつと遠くへだつて一人でいくんだよ。ここまでぐらゐなんでもねえよ。」
「とちゆうで、もし、まちがひがあつたらどうするんだ。おまいにはまだ馬がじゆうにはなるまい。」
「おれに?」
 リカは笑ひました。
「三頭びきだつてやれるよ。二頭ぐらゐなんでもないよ。」
「ふうん、そいつあ、えらいな。」とお父さんはいひました。
 レーワと、ボーリヤと、サシュールカは、びつくりしたやうな目をして、リカをみてゐましたが、じぶんたちも、リカとお話がしたくなつたらしく、すこしづゝそばへよつてきました。
「家へね、今にクリスマスの飾りもみの木がくるわよ。」とボーリヤがいひました。
「あつちへおいでなさい。」とお父さんはいひました。
「こゝはお前たちのくるところぢやありません。」
 子どもたちは、しかたなしに、いや/\台所を出ていきました。けれど、お父さんがお部屋へいつてしまふと、すぐまた台所へやつてきました。
「ね、家へね、クリスマスのもみの木がくるのよ。」
「ふん来るものは来させるがいゝよ。」とリカはいひました。
「それよりかお母さんに言つてくんな。金をくんなつて。一ルーブル八十コペックだよ。」
 リカは、お茶をやたらにのみました。で、すつかり汗をかいて、ためいきをしながら窓の外をみて下女にいひました。
「ふう。なんてひどい天気だらう。一晩とまらなきあならないな。お前おれをおひ出しやしないね。」
「リカが家へ泊るんだつて。」と、子どもたちは、うれしさうにさけびました。
「だけど、お前どこにねるの?」と下女がきゝます。

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