褒めてゐましたよ。胸の格好が好い。目附が好い。それから髪容《かみかたち》が好い。まるで旨い菓子のやうだ。だが女ではないと云つて、笑つたです。まだあの人も若いですからな。」チモフエイはラツパを吹くやうな音をさせて、嚏《くしやみ》をした。そしてかう云つた。「そこでですな。あの御亭主には困りますよ。突然そんな途方もない所へ這入り込んでしまつたとなると。」
「併しどうも不運で非常な事に逢つたのですから。」
「それはさうです。併し。」
「ところでどうしたものでせう。」
「さあ。一体これをわたしがどうすれば好いと云ふのですか。」
「兎に角どうしたら宜しからうか、その辺のお考を仰やつて下さい。御経験のおありになるあなたの事ですから。どう云ふ手続にいたしたら宜しいでせう。上役に申し出たものでせうか、それとも。」
「上役にですか。それは断然行けますまい。」チモフエイの語気は急であつた。「わたしの意見では、先づ成るたけ事を大きくしないで、万事内々で済ますですね。さう云ふ事はどんな嫌疑を受けまいものでもないです。なんにしろ新事実ですからね。これまで例のない事ですからね。その未曾有《みそう》だと云ふ事、先例が
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