駱駝もゐる。熊なんぞはペエテルブルクの直傍《ぢきそば》にもゐる。余計な事を思つて、とう/\自分が動物の腹の中へ這入つたのです。お負けに※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹なんかに。」
「どうぞさう仰やらないで、少しは気の毒だとお思ひなすつて下さい。あの男は不為合《ふしあは》せになつた今日、平生の御交際を思つて、丁度親類中の目上の人に依頼するやうに、あなたに相談相手になつて戴きたいといふのです。それにあなたはあの男を非難してばかりお出になる。せめては女房のエレナにでも御同情なすつて下さいませんか。」
チモフエイは稍《やゝ》耳を欹《そばだ》てた気味で、愉快げに※[#「鼻+嗅のつくり」、第4水準2−94−73]煙草《かぎたばこ》を鼻に啜り込んだ。「はあ。あの男の妻《さい》ですか。洒落た女ですね。ちよつとあんな女はゐませんね。かうどことなくふつくりしてゐて、小さい頭をちよつと横に傾《かた》げてゐる所が好いです。好い女です。おとつひもアンドレイ・オシピツチユがあの女の噂をしましたよ。」
「へえ。あの妻君の噂をせられたのですか。」
「さうです、さうです。しかも大層
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