のやうに聞える。
 エレナは体を顫はせて云つた。「イワンさん。そんならあなたはまだ生きてお出なさるのね。」
 例の遠方で叫ぶやうな声をして、イワンは答へた。
「生きてゐるとも。しかも極壮健でゐるのだ。為合せな事には、呑まれる時体に少しも創が付かなかつた。唯一つ気に掛かる事がある。外でもないが己がこんな所に這入り込んでゐるのを、上役が聞いたら、なんと云ふかと云ふのが問題だ。外国旅行の許可を得てゐながら、※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹の中に這入つてぐづ/\してゐると聞いては、どうも気の利いた人間のやうには思はれまいて。」
「あの。人に気が利いてゐると思はれようなんぞと云ふ事はかうなればどうでも好いでせう。それよりか、どうにかして早く外へ引き出してお貰ひなさらなくつてはなりませんわ。」
 ドイツ人は殆ど怒に堪へないやうな語気で云つた。「引き出すのですと。そんな事はわたしが不承知です。かうなつた日には、わたしの見せ物は前の倍位|流行《はや》るに違ひない。これまでは一人前二十五コペエケン貰つてゐるのですが、これからは五十コペエケンに値上げをします。この様子で
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