間違つてゐるよ。第一この場でどうすれば好いかと云ふに、何より先に区内の警察署に知らせなくては行けない。どうせ警察権を楯にしなくては、そのドイツ人に道理を呑込ませる事は出来ないからね。」
イワンはこの詞をしつかりした、自信のある声で言つた。この場合でそれが出来たところを見ると、イワンは実に物に慌てない男だと云ふ事を証明してゐる。併し我々の為めには如何にも意外なので、声が耳には聞えても、自分で自分の耳を疑つた。併し我々は兎に角ブリツキの盤の側へ駆け寄つて不審に思ふと同時に敬意を表して、※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹中に囚はれてゐる気の毒なイワンの詞を敬聴した。
この土地では婚礼の前の晩に色々ないたづらをする風習があるが、さう云ふ晩に己は妙な事をするのを見た。河を隔てゝ向河岸《むかうがし》にゐる百姓と話をする百姓の真似をする物真似である。その為方《しかた》は隣の室に隠れて、口の前に布団をあてゝ、精一ぱい大声を出して饒舌《しやべ》るのである。※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹の中でイワンの饒舌るのが、丁度その物真似の声
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