て来る。そこでその周囲《まはり》に資本が集まるですな。そこで中流社会が成立つですな。それを補助して、奨励して行かなくては駄目です。」
「併し如何にも気の毒ですが。どうもあなたの仰やるところでは、あのイワンを犠牲にすると云ふやうになりますが。」
「いや。わたしは何もイワンに要求するところはないのです。先刻も云つた通り、わたしはあの男の上役ではない。ですから、何もあの男にかうしろと云ふ事は出来ない。わたしは只ロシアと云ふ本国の一臣民として云ふのです。或る大新聞の言草とは違ひます。只本国の普通の臣民として云ふのです。それに問題は、誰があの男に頼んで、※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹へ這ひ込ませたかと云ふにあるですな。真面目な人間、殊に役人として相当の地位を得た人間が、妻子まで持つてゐながら、突然そんな事をすると云ふ事があるものですか。まあ、あなただつて考へてお見なさるが好い。」
「併し何も好んでしたわけではありません。つひ過つてしたのです。」
「さうですかな。それもどうだか知れたものではありませんね。それにドイツ人に※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の代価を払ふとしたところで、その金はどこから出るです。その辺のお見込が附いてゐますか。」
「どうでございませう。あの男の俸給で差引いては。」
「そんな事で足りますか。」
 己は窮した。「どうも覚束ないです。実はドイツ人も最初※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]がはじけはすまいかと、大層心配しました。併し無事に済んだと見るや否や、ひどく高慢になりました。入場料を倍にする事が出来さうだと云ふので。」
「倍どころではありますまい。三倍にも四倍にも出来るでせう。多分見物が入場券を争ふやうになるでせう。さう云ふ機会を利用する事を知らないほど、※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の持主は愚昧ではありますまい。わたしは繰り返して云ふが、兎に角イワンは差当りぢつとしてゐるですな。何も慌てるには及びません。まあ、あの男が※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の中にゐると云ふ事は、自然に世間に知れるとしても、我々は表向知らない顔をして遣るですな。それには外国旅行の許可を得てゐるから、好都合ですよ。もし
前へ 次へ
全49ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング