誰かが来て、あの男が※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の中にゐると云つたつて、我々はそれを信用さへしなければ好いです。さうしてゐるのは、造作はありません。要するに時期を待つですな。何も急ぐにも慌てるにも及びません。」
「併しひよつと。」
「なに。心配しないが好いです。あの男は物に堪へる質《たち》ですから。」
「ところが愈《いよ/\》我慢した挙句は。」
「さあ。わたしだつてこの場合が困難な場合だと云ふ事は認めてゐます。思案した位で、解決は付きません。兎に角難渋なのは、これまで似寄の事もないのです。先例がない。もし只の一つでもさう云ふ例があると、どうにも工夫が付きませうがな。どうも如何んとも為様《しやう》がないです。考へれば考へる程むづかしくなりますからね。」
この時己はふと思ひ付いた事があるので、チモフエイの詞を遮つた。「どうでせう。かうするわけには行きますまいか。兎に角あの男は※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹の中にゐて、その※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の寿命は中々長いと見なくてはなりませんから、あの男の名前で願書を差出して、※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹の中にゐる年月を勤務年月に加算してお貰ひ申す事は出来ますまいか。」
「ふん。さやう。休暇と見做《みな》して、給料は払はずにですな。」
「いいえ。給料も払つて貰ひたいのですが。」
「はてね。なんの理由で。」
「それはかうです。まあ、今ゐる所へ派遣せられたと見做しまして。」
「なんですと。どこへ派遣せられたと云ふのです。」
「無論※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹の中へ派遣せられたと見做すのです。謂《い》はば実地に付いて研究する為に派遣せられたと看做したいのです。無論それは例のない事でせうが、これも進歩的の事件で、それに人智開発の一端でせうから。」
チモフエイは暫く思案した。「どうも官吏を※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の腹の中へ、特別な任務を帯びさせて派遣すると云ふのは、わたしの意見では無意義です。そんな予算はありませんからな。それにその任務がどうも。」
「さやうですね。学術上に実地検査をさせるとしては如何でせう
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