構ふ事はありません。それは時が立つてから、あの男が帰つて来ないとなると、それは別問題です。その時捜索もし取調べもすれば好いです。」
「それは三月も先の事です。余りあの男に気の毒ではありませんか。」
「されば。どうも自業自得ですからな。一体誰があの男に、※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の中へもぐり込めと云つたのです。どうにかして遣ると云へば、政府が※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]の中へ這入つた男に介抱人でも付けなくてはならんと云ふのですか。そんな費用は予算に見込んでありませんからな。それはさうと要点はかうです。※[#「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1−94−55]は個人の所有物ですから、所謂経済問題が起るです。何より先に経済問題を考へなくてはなりません。一昨日もルカ・アンドレエヰツチユの宴会の席で、イグナチイ・プロコフイツチユがその点を委しく論じましたつけ。時にイグナチイは御承知ですね。資産家で事業家です。御承知かも知れませんが話上手ですよ。こんな風に云つてゐました。産業を起すのが急務だ。それがロシアでは欠けてゐる。それを起さなくてはならない、新しく生まなくてはならない。それには資本がいる。それには所謂中流社会が先づ成立たなくてはならない。ところで内地にはまだその資本がないから、外国に資本を仰ぐより外ない。現に外人の会社が出来てゐて、盛んに内国の土地を買入れようとしてゐる際だから、彼に十分の利益のあるやうな条件で、土地を買はせて遣るが好い。現在の自治体で、共同工事をしたり、共同財産を持つてゐたりするのは、その所謂財産が無財産と同一だから詰まり毒だ。詰まりロシア人の破産だ。まあ、こんな風に、熱心に云つてゐましたよ。なんにしろ資産家ですから、そんな議論も出来るのですね。官吏なんぞとは違ひますからな。それからかう云ふです。現在の自治体では、工業を起す事も農業を盛んにする事も出来ない。外人の立てゝゐる会社に、出来る事なら全国の土地を買はせるが好い。その上で広い地区を細《こまか》に、細に分割する。分、割と、一字一字力を入れて云つて、手の平で切る真似をしたです。さて細に分割した上で、望の百姓どもにそれを売る。売らなくても好い。貸しても好い。兎に角全国の土地が外人の立てた会社の所有になつてゐる以上は、借地料は
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