あき地で畑《はたけ》をたがやしていた百姓《ひゃくしょう》のほうへ、いっさんにかけだしました。
 それは、わたしのうちの百姓のマレイだったのです。そんな名があるかどうか知りませんが、とにかくみんなが、かれのことをマレイと呼《よ》んでいました。年は五十くらいでしょうか。がっしりした、かなり背《せ》の高い、ひどく白髪《しらが》のまじった赤ちゃけたひげをぐるりと顔《かお》いちめんにはやした百姓です。わたしは、それまでマレイを知ってはいましたが、一度も口をきいたことはありませんでした。わたしの叫び声を聞きつけると、百姓はわざわざ馬をとめました。そこへとびこんで行ったわたしが、片手《かたて》でマレイの鋤《すき》に、もう一方《いっぽう》の手でその袖《そで》にしっかりしがみついたとき、マレイは、やっと、わたしのただごとでないようすを見てとりました。
「おおかみがきた!」と、わたしは息《いき》をきらしながら叫《さけ》びました。
 百姓《ひゃくしょう》は、ひょいと首《くび》を起して、思わず、あたりを見まわしました。ほんのちょっとのあいだ、わたしの言うことにつられたのです。
「どこにおかかみがね?」
「そう
前へ 次へ
全14ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング