らず母親《ははおや》のようなやさしいほほえみで笑《わら》いかけながら、そうつけたしました。「な、キリストさまが、ついておいでじゃ、さあ、行きなされや。」
そして、片手《かたて》でわたしのかわりに十|字《じ》をきり、それから、自分も十字をきりました。
わたしは、十|歩《ぽ》ごとにうしろをふりかえりながら歩いて行きました。マレイはわたしが歩いて行くあいだ、ずっと自分の馬といっしょに立ったまんま、わたしのうしろを見送っていてくれました。わたしがふりかえるたびに、うなずいてみせるのでした。じつは、わたしは、あんなにふるえあがったのが、今ではなんだかマレイにすこし恥《は》ずかしくなりました。けれど、それでも、谷《たに》の斜面《しゃめん》をのぼって、とっつきの納屋《なや》へ出るまでは、やっぱり、おおかみをこわいこわいと思いながら歩いて行ったのです。でも、そこまできたら、こわいなぞという気持は、すっかり消《け》しとんでしまいました。すると、そのときふいに、どこからやってきたのか、うちの飼《か》い犬のヴォルチョークが、わたしにとびつきました。犬がきたので、わたしはもうすっかり元気《げんき》になって
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