といったら。みんなが、わめいたり、手をふりまわしたりする中で、ひとりの奥さんが、いそいでそばへよってきて、少年の手のひらに一|円《えん》銅貨《どうか》をおしこむと、自分でおもてのドアをあけて、少年を追いだしてしまった。
 少年は、びっくりぎょうてんした。そのはずみに、銅貨がすべり落ちて、入口の石段《いしだん》でちゃりんと嗚《な》った。まっかになった指はまげることができず、銅貨をにぎっていられなかったからだ。
 そこを逃《に》げだすと、少年はどこへ行くのか自分でもわからず、どんどんいそぎ足で歩いて行った。また泣きだしたくなったけれど、こわさのほうがさきにたって、両手《りょうて》に息《いき》を吹《ふ》きかけながら、いちもくさんに走《はし》って行く。やがて急《きゅう》に、さびしい気味《きみ》のわるい気がしてきて、心|細《ぼそ》くなったが、そのとたんに、ああ、これはまた、どうしたことだろう。黒山のように人だかりがして、みんな目をまるくして見物《けんぶつ》している。
 窓《まど》ガラスの中には、小さな人形《にんぎょう》が三つ、赤や緑《みどり》の服《ふく》を着《き》て、まるで、ほんとに生きているよ
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