うだった。じいさんが腰《こし》かけて、大きなヴァイオリンを弾《ひ》いていると、残《のこ》るふたりはそのそばに立って、小さなヴァイオリンを弾きながら、ひょうしにあわせて首《くび》をふりふり、たがいに顔《かお》を見あわせて、くちびるをもぐもぐ動かしている。何か話をしているのだ。ほんとに話をしているのだが、ガラスの向こうなので、聞えないだけなのだ。
はじめのうち少年は、ほんとに生きているのだと思ったけれど、まもなく、なあんだ人形《にんぎょう》なんだ、と気がつくと、いきなり大声で笑《わら》いだした。今の今まで、そんな人形を見たこともなければ、そんなのがあろうとは夢《ゆめ》にも知らなかったのだ。泣《な》きたいような気もするけれど、そのくせ人形が、おかしくておかしくてたまらない。……
するとふいに、だれかがうしろから、ぐいとえり首《くび》をつかんだような気がした。見ると、大きななりをした不良《ふりょう》少年が、すぐうしろに立っていて、いきなり頭《あたま》をなぐりつけると、少年の帽子《ぼうし》をもぎ取って、足でうんとけとばした。地べたに、ころころころがったが、まわりでどっと人声がしたので、あやう
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