で見つけたけれど、食べるものといったら、パンの皮《かわ》ひとつ落ちていない。今朝《けさ》から、もう十ぺんも、おかあさんを起しに行ってみた。とうとう、少年は、暗《くら》がりの中にいるのが心|細《ぼそ》くなってきた。日はもうとっくに暮《く》れかけているのに、あかりがともらないのだ。
おかあさんの顔《かお》にさわってみて、少年はどきりとした。おかあさんは、ぴくりとも動かない。おまけに、まるで壁《かべ》みたいにつめたくなっている。
「ここは、とても寒《さむ》いや。」と、少年は思って、もうなくなっているとは知らず、おかあさんの肩《かた》にぼんやり片手《かたて》をかけたまま、しばらく立っていた。やがて、手に息《いき》を吹《ふ》きかけて、かじかんだ指《ゆび》を暖《あたた》めると、いきなり、寝床《ねどこ》の板《いた》の上にあった自分の帽子《ぼうし》をつかんで、そっと手さぐりで、地下室《ちかしつ》からぬけだした。
もっと早く出たかったのだが、はしご段《だん》の上にがんばって、となりの人の戸口の前で一日じゅううなっている大犬が、こわかったのだ。その犬が、もういなかったので、少年はぱっと往来《おうらい》
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