しいて、何かの包《つつ》みをまくらのかわりにあてて、病気《びょうき》のおかあさんが寝ている。どうしてこんなところに、やってきたのだろう。きっと、どこかほかの町から、その子をつれてきたのだが、急《きゅう》にかげんがわるくなったにちがいない。
この宿のおかみさんは、二日ほどまえに警察《けいさつ》へ引っぱられて行った。何か悪いことでもしたのだろう。なにしろお祭《まつ》りのことだから、とまっている人たちも、ちりぢりにどこかへ行ってしまい、残《のこ》っているのは、失業者《しつぎょうしゃ》みたいな男ひとりだった。この男は、お祭りのこないさきからぐでんぐでんによっぱらって、朝から晩まで、正体《しょうたい》もなく寝こけている。
いや、もうひとり、別《べつ》のすみのほうに、八十ぐらいのばあさんがレウマチでうなっている。もとはどこかで、乳母《うば》をしていたらしいが、今ではひとりぼっちになって、もうじき死《し》にそうなようすである。ため息をついたり、うんうん言ったり、ぶつぶつ少年にあたりちらしたりする。それで少年は、こわくなって、そのすみへは近よらないようになった。
飲む水だけは、やっと出口のあたり
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